田の神
あれは、いつもの通勤ルートを走っていた朝のこと。工業団地を造成している志布志湾岸臨海工業団地の道沿いに気になる石像の後ろ姿があった。一度車を降りて、見てみるとお地蔵さんではないけど、両手になにやら持っている。よくよく調べてみると、これは「田の神」(たのかんさぁ)と呼ばれる石像のようであった。田の神は鹿児島県と宮崎県の一部の旧薩摩藩にのみ分布しており、江戸時代中期から五穀豊穣や子孫繁栄をもたらす田の神の化身として祭られてきたようだ。「田の神サァ ガイドブック」によると、大崎町だけでも76体もの田の神があるようで、他の地域よりもその数は多い。志布志市有明町で36体あるようだ。Google Mapに「田の神」と入れて検索するとそこいらじゅうにあることが分かる。そこで、暖かな日に自転車で少し探して回ることにした。結局45Kmも走ることとなってしまったが、色々な田の神に出会えて幸せだった。
まず始めにきっかけとなった工業団地の田の神に会いに行った。昭和6年に設置されたもので、「僧侶型」で右手にメシゲ(しゃもじ)、左手にスリコギを持っている。志布志市役所の方に聞いたところ、近々移設されるとのこと。新たな場所で田畑の守り神となるのであろう。
次に自転車で向かったのは「上門の田の神」。祠の中に、ちっちゃな石像がある。これでは盗まれてしまいそうだが、実際に昔は盗まれていたのかもしれない。昔の風習では「おっとり田の神」(おっとり:鹿児島地方の方言で「盗む」という意味)といって、豊作であった地方の田の神を置き手紙をして盗んできて、2~3年後に米や焼酎とともに戻しに行くことがあったようだ。ただ、盗まれないようにと大きくしていったようで、「広津田の田の神」は高さ140cmもあり、とても盗めるものではない。この田の神は1847年ころ(天保年間)の作で、大隅地方特有の神職型座像である。そして他の田の神と同様に田んぼのほうに向いている。このような大きな石像は他に「和田の田の神」がある。大きな交差点傍らに鎮座している。今は通学するお子さんを見守り、交通の守り神のような役割を果たしているのではないだろうか?
その他にも雑草のなかにちょこんとあったり、化粧をしていたり、おどけていたりと、ほんと個性豊かな田の守り神たちです。今回出会った田の神を全てご紹介することはできません。みなさんも是非会いに行ってみてください。